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佐藤春夫「田園の憂鬱由縁の地」碑

佐藤春夫「田園の憂鬱由縁の地」碑

 横浜上麻生道路に沿う鉄町の三叉路に、佐藤春夫「田園の憂鬱由縁の地」碑が立っている。佐藤春夫が当地に住んで大正7年に発表した小説「田園の憂鬱」に、地元の女学生として登場する金子美代子さん(故人)が、佐藤春夫の同意を得て昭和57年に建立したもの。佐藤春夫は妻と2匹の犬と2匹の猫を連れて、大正5年春から9か月にかけて、当時の筑都群中里村鉄に住んで執筆した。当時の鉄村の風景がよく描かれ、地主が妾宅として建てた茅葺きの家をその死後娘婿の小学校長より貸りたことも記してある。谷本川越しに見えた丘陵(みたけ台・柿の木台)の森は女の寝姿のように素晴らしいと称賛しているが今はその面影を残すのは、みたけ台公園とこどもの杜(児童野外センター)位であり、全体に家が建ち並ぶ台地に様変わりしている。佐藤春夫が住んだ家も、傍を流れた湧水の小川も幻となり、この文学碑の周りも建築用の塀が建ち、まことに殺風景である。

 「田園の憂鬱」を読み、この由縁の地を訪ねて往時を偲び、消え行く自然の風景を護る思いを強くしたいものである。

(山本 文義)